導入事例

生成AI×エンタープライズサーチで、学習データが不要な社内ナレッジ検索の新しいかたちを実現

株式会社オカムラ様

株式会社オカムラ(以下、オカムラ)は、製品情報など社内ナレッジ検索のさらなる効率化を目指し、生成AIの可能性に注目した。そして、現行のエンタープライズサーチ(企業内検索システム)に生成AIを組み合わせることで、学習データが不要な、自然言語によるナレッジ検索の仕組みを構想。プロジェクトはアグレックスとの共創体制で進められ、社員が創造的な業務に専念できる環境づくりが大きく前進した。

お客様情報
本社 神奈川県横浜市西区北幸1丁目4番1号 天理ビル19階
創業 1945年
事業内容 オフィス環境事業、商環境事業、物流システム事業 など
URL https://www.okamura.co.jp/

背景

「分からないことは詳しい人に聞く」習慣が生産性低下の一要因に

オカムラはオフィス家具などのものづくりをはじめ、オフィス・店舗・物流倉庫など空間づくりまでを総合的に手がける業界大手。

同社DX戦略部は近年、社内ナレッジ検索の効率化に力を入れてきた。同部の梅田晋太郎氏は、その背景をこう説明する。「日々の業務で、社内のナレッジが必要になる場面は非常に多く存在します。たとえば、営業担当がオフィス家具の仕様や販売ルールを知りたい時や、オフィスレイアウト設計で消防法上の制約事項を確認したい時などがそうです」。

同社は、エンタープライズサーチ製品「Neuron Enterprise Search」(以下、Neuron ES)を導入し、この社内需要に応えてきた。エンタープライズサーチとは、社内のさまざまな場所に保管されているデジタルデータを横断検索できるシステムで、広く企業での採用が進んでいる。ほかに、休暇申請手続きなど社内規定の質問に自動回答するシナリオ型のチャットボットも運用していた。

しかし、これらのITツールだけでは、ナレッジ検索のすべての課題は解決できなかったと梅田氏は言う。「入社して間もない社員は、そもそも検索に適したキーワードが分かりません。また、製品のマニュアルなどPDFがヒットしても、それを熟読して理解するには非常に時間がかかります。結局、“詳しい人に聞く方が早くて正確”という意識の社員は多く、質問する側・答える側ともに生産性の低下につながっていました」。

目標

学習不要で生成AIに社内情報を回答させる仕組みを構想

2023年に入って、DX戦略部は世界規模で爆発的に普及し始めた生成AIに注目。AIチャットサービスChatGPTをテスト導入し、ナレッジ検索における可能性を検証した。「ChatGPTが答えられるのは、インターネット上で公開されている一般情報のみ。社内情報の質問に回答できるようにするには、これまでに蓄積された膨大な仕様書やマニュアルを学習させる必要がありました。加えて、新製品リリースや法制度が変わるごとに、永続的なメンテナンスも必要です」(同部 小林優貴氏)。

しかも、学習データとしての効果を高めるには、既存ファイルの文章をすべて一定ルールで階層化しなければならず、その作業負荷を現場が担うのは不可能と判断した。

そこでDX戦略部は、運用中のNeuron ESに生成AIを組み合わせれば、学習データを用意することなく社内情報を回答できるのではという、ひとつの仮説を立てた。

生成AIが自然言語による質問内容を理解して検索キーワードを生成し、Neuron ESがそのキーワードから社内横断の検索を実行。ヒットしたファイルの内容を再び生成AIが要約して回答するという、両者の特性を組み合わせたものだ。「このような社内ナレッジ検索のかたちはそれまで聞いたことがなく、技術的に実現できるかどうかさえ分かりませんでした」(梅田氏)。

選択

アグレックスとの共創で、まだ世の中にない生成AI活用のかたちを目指す

当初、DX戦略部は独力でシステム構築を目指したが、生成AIとNeuron ESのAPI連携や、それらを社内システムと連携させる技術部分がネックとなった。そこで、AIの知見を持つパートナーを探したが、ともに同じ目標を目指せる会社には出会えなかったという。「どの会社も、生成AIとエンタープライズサーチの連携は未経験。最終的にその会社のソリューション製品を推奨されるケースもあり、既に導入済みのNeuron ESとChatGPTで目的を達成したいという我々の前提とは違っていました」(同部 池田秀明氏)。

そこで、Neuron ESの導入パートナーであるアグレックスに、技術面での協力を打診することとした。「Neuron ESに関する技術知識を持っていることが、成功の大きな鍵になるのでは考えました。アグレックスには“まだ世の中にない仕組みなので、実現できるかどうかも分からないが協力してもらえないか”と率直に我々の思いを伝えたところ、快諾いただきました」(梅田氏)。

アグレックスも当時、自社内で生成AIの技術検証に着手し、エンタープライズサーチやチャットボットの構成について研究を進めていた。生成AIの領域でビジネスを本格化したい意向を持つアグレックスにとって、共創プロジェクトは知見を蓄積する絶好の機会であった。こうして両社それぞれの目標のもと、2024年2月にPoCがスタートした。

調整

アグレックスによる徹底したチューニングで検索性を向上

第1フェーズで目標としたシステムの全体像は次のとおり。社員はフロントUIとなるMicrosoft Teams上で「製品◯◯の仕様が知りたい」「販売する時の留意点は何?」のように自然言語のテキストで質問する。そこからAIが適切なキーフレーズを抽出してNeuron ESに渡すと、社内ネットワークから該当する情報が検索される。そして3つのPDFファイルが候補として絞り込まれ、再度AIが最も目的にあうと判断したファイルから回答を生成して社員へ回答する。なお回答の末尾には、出典元のPDFファイルのリンクも記載され、より詳しい情報の閲覧と正しい情報かどうかの確認もできるようになる。

生成AIとNeuron ES、社内の基幹データベース(製品マスター等)を連携させる裏側の仕組みの構築は、アグレックスがMicrosoft Power Platformの複数ツールを組み合わせて構築した。

さらにアグレックスは検索精度を向上させるため、生成AIに対する指示にあたるプロンプトのチューニング作業に人的リソースを集中した。まず、DX戦略部と協力して、生成AIが検索用キーワードを生成する際に優先的に使用する言葉をチューニングするとともに、ノイズとなる言葉を除外するための設定を実施。想定される典型的な質問例をもとに、求める答えが正しく導き出されるまでチューニングを繰り返し、Neuron ESに適切な検索条件を渡せるよう、精度向上を図っていった。

  • RAG:Retrieval Augmented Generationの略。外部ソースを利用して、生成AIの回答精度と信頼性を向上させる技術。
Microsoft Teams上での自然言語による質問に対して、最も目的にあうファイルの内容を生成AIが回答

精度

RAGを活用して学習不要で高精度な回答を実現

一般的に、生成AIに高精度で回答させるには、事前の学習以外に、RAG(ラグ)を利用する方法がある。RAGとは、人間が質問に答えるときにメモを見るのと同じように、生成AIが外部データを利用する方法のこと。今回、構築を目指すシステムは、Neuron ESが管理しているPDFファイルや商品マスターのデータベースをRAGとして扱うことが前提となっている。

製品情報の質問をする場合のメニューも用意し、オカムラの製品名であることを瞬時に理解したうえで、的確な検索キーワードを生成してNeuron ESに渡すことができる。「RAGを活用すれば、学習させる手間をかけることなく、特定のディレクトリにPDFを入れたり差し替えたりするだけで、最新の情報を反映させることができます。当初、商品マスターをRAGとするには、かなり処理時間がかかるのではと考えていましたが、アグレックスとの共創で、スピード感を出せるよう対応できたのは収穫です」(池田氏)。

現在、マニュアルや資料に含まれる表や図版もRAGとして参照できるよう取り組みが行われている。「表や図自体に手を加えるのではなく、別途ライブラリを加えるといった手段をアグレックスと検討しているところです」(小林氏)。

効果

生産性向上を妨げる作業をAIに任せて創造的な業務に専念

2024年4月に第1フェーズが終了し、基本的な仕組みは完成。その後もフェーズを数段階に分けて機能強化が図られている。現行のチャットボットも本システムへの統合を予定しており、製品や社内規定など、あらゆる質問への入口を目指している。

従来の情報検索と比べて改善された点を梅田氏はこう説明する。「自然言語で検索できる点と、絞り込んだ3つのPDFファイルのうち最も目的にあうファイルの内容をAIがその場で回答する点が画期的です。新入社員も検索キーワードにとらわれることなくMicrosoft Teams上で質問できます。新人教育担当者からは、それで解決しなかった場合のみ直接指導をすることで効率的に教育できると好評です」。

今回構築したシステムは、生成AI単独の場合に課題になりがちな、運用・メンテナンスの負荷を抑えられるメリットがあると小林氏は話す。「工場や保守部門などが、まだファイル化していない製品情報を社内共有すべきと判断した場合、自分たちでPDFを特定フォルダに入れるだけで完了します。学習データを用意したり、全体のフォルダ構造を変えることなく、コアな質問にも回答できるようになるので、我々がメンテナンスする手間もかかりません」。

共創パートナーであるアグレックスへの印象を梅田氏は次のように語る。「生成AIの技術は日進月歩で進化を続けています。未知の課題にぶつかることもありますが、アグレックスが最新情報を調べて“この方法がよさそうです”と提案をしてくれます。その際、改善される点と注意すべき点も併せて伝えてくれるので、アグレックスとの共創は大きな力になりました」。

そして、社内ナレッジ以外の生成AI活用の可能性について池田氏はこう締め括る。「テーマはたくさんありますが、中でも、お客様や取引先などからの問い合わせを受けるコンタクトセンターでの対応と、社員一人ひとりにAIエージェントを付与することを優先して目指しています。生産性を阻むあらゆる業務をAIに任せ、そのぶん、人は創造性が求められる業務に専念していきたいと思います。今後もITパートナーとして、アグレックスからの新しい提案に期待しています」。

お客様の声

アグレックスには、今回の挑戦が技術的に実現可能か分からない段階からご協力いただいたことに深く感謝しています。

オカムラは現在、社員に向けて“AIと一緒に働きましょう”というメッセージを打ち出しています。既に、お客様に提案するオフィスレイアウトの設計時にもAIを取り入れ始めており、レイアウトの自動化や、人の動きを予測してデスクやチェア製品を選定し見積りを作成することが可能です。ただし、AIは過去の情報の蓄積から提案するだけなので、最後の“ひとひねり”は人間の腕の見せどころです。これを我々は『チャレンジ業務』と呼んでいます。このチャレンジ業務に専念して付加価値を生み出し、AIとともに快適に働ける環境をつくっていきたいと考えています。

アグレックス担当者から

共創を通じて、ともに当初掲げた目的を達成でき、うれしく思います。オカムラ様は生成AIによる社内情報検索を実現されたこと。一方アグレックスは、生成AIを業務活用する知見およびお客様の業務にあわせて活用していくノウハウを蓄積することができました。

生成AIは日々目まぐるしく進化しています。プロジェクト進行中もAI関連のイベントやセミナーに参加しながら、TISインテックグループ内で最新技術動向を共有し、有効と考えられるものはすぐに検証するというチャレンジの連続でした。

オカムラ様へは、これからも生成AIを活用して社員の皆さんがよりコア業務に集中できる仕組みをご提案したいと思います。

また、今回の共創活動で得られた知見を活かし、社内ナレッジ検索の効率化や、社外からの問い合わせの効率化をご希望されるさまざまなお客様へ、新しい生成AIモデルのかたちを提供していきます。

  • ChatGPTはOpenAIの製品です。
  • Microsoft 、Microsoft Teams 、Power Platform は、米国 Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標または商標です。
  • 記載されている情報は、取材当時(2025年3月)のものです。最新の情報とは異なる場合がありますのでご了承ください。